臨時休校で立ち上がったお寺。子どもたちの一時預かりを開始(一乗寺・静岡県静岡市)
2020.03.06
安倍総理による全国小中学校・高校の一斉休校要請で動揺が広がっていますが、子どもの安全と教育を確保するために各地でさまざまな動きが出ています。
まいてら寺院でも、子どもの一時預かりを行うお寺が現れました。
立ち上がったのは、一乗寺 (静岡県静岡市)の住職・丹羽 崇元 さん。その思いをうかがいました。
丹羽 崇元 (にわ そうげん)
1984年生まれ。大学卒業後、曹洞宗大本山永平寺へ入山。約3年半の修行後徒歩にて帰郷。現在はお寺を主軸とした地域コミュニティやサードプレイスとしての可能性を考え様々な活動を展開中。趣味は絵と旅と料理。
公的セーフティネットからこぼれ落ちる家庭・子どもを支えたい
「休校のニュースを耳にし、これは大変なことになる、お寺でもできることはないかと考えはじめたんです。ちょうど昨年に本堂が新しくなり、子どもや大人にゆっくり過ごしてもらえるよう工夫を重ねてきていました。ひとり親や共働きのご家庭をはじめ、自宅待機で家にずっといる子もストレスがたまって大変だと思うので、息抜きになればと考えたのがきっかけです」
とはいえ、すべての子どもをお寺が支えようとしているわけではありません。
「この地域は時間を定めて預かりを行なっている小学校もあり、その後は学童に居られれば最善だと思いますが、低学年優先の学童に入れない小学校中高学年の子どもやパート就労のご家庭など、どうしてもそこからこぼれ落ちてしまう子どもがいます。そのためのセーフティネットになればと」
丹羽さんは、公的セーフティネットの隙間を埋める、非公式のセーフティネットとしてのお寺、という位置づけを意識しています。
「火事に例えたら、消防士が動かない街は火事もないということなので、一番理想的なわけです。今回も、準備はしたけど、お寺が動く日がなかったというのが理想なのかもしれません」
ゼロからの一時預かり立ち上げに、お寺のご縁が活きた
ところが実際に受け入れ準備に取りかかってみると、簡単には進みませんでした。
「休校要請の翌日に教育委員会に相談したところ、教育委員会も急な動きに混乱しており、とても相談ができる状態ではありませんでした。なので、土日でゼロから、受け入れのガイドラインを創り上げたんです。自分一人ではとうてい無理だったので、自分が小さい頃に入院していた子ども病院、近くのこども園、お寺のイベントで知りあったママ友、地元の小中学校の先生など、地域のご縁に助けられてガイドラインをまとめました」
重層的に張り巡らされた地域とお寺のご縁。社会の緊急時に、そのご縁の力が発揮されることが感じられるエピソードです。
「そうして、週明けの月曜日に改めて教育委員会と話しました。教育委員会としても現状把握に追われ、どういうことが起きるか分からない中ですが、善意をむげにできないということに加え、『一乗寺は檀家さんと緊密な信頼関係ができているでしょうから、教育委員会としても関知するものではない』と言っていただきました。つまり、公にOKとは言えないけれど応援しています、ということですね」
開設準備が整う中、小学校から休校初日(3月3日)は待ってほしいという要請がありました。いざ3日がくると、意外に街は落ち着いており、これなら大丈夫ということで、その日の夜に4日からの開設をお寺のフェイスブックでリリースしました。
これがSNSのシェアを通じて大反響。各所から応援のメッセージが届いたことや、メディアからの取材依頼が殺到したことに丹羽さんも驚いたそうです。
そして、ベビーシッターの資格を持つ方をはじめ、元保育園の先生も手伝ってくれることになったり、地元のパン屋さんからはパンやドーナツ、美容室さんからはタオル・消毒液の差し入れの申し出があったりと、具体的な行動で支えてくれる応援団も現れました。
やってみたから見えた、地域の重層的セーフティネット
いざスタートしてみたところ、初日は0名で、2日目に初めて1名の子どもが来ました。「来るもの拒まずの精神でやっていますので、まずはすべて受け入れようと思っています」
やってみて分かったこともあります。その一つは、地域のお母さんたちがその関係性を活かし、色々な面で助け合っている姿が見えてきたことでした。
「まずは当事者同士で助け合うことが一番だと思います。その上で、どうしても難しいご家庭はお寺に来ればいいのです」
学校・学童という公的セーフティネット、保護者同士の関係による自助的セーフティネット、そしてそれらのすき間を埋めるお寺という第三のセーフティネット。それらが相互に補完しあえばよい。やりはじめて、おぼろげながらも地域の連携の形が見えてきたと丹羽さんは言います。
ヒントは「寺子屋」? さまざまな状況の子どもが共存できる仕組みを
一方、困ったことも起きているとのこと。
「もともと、未就学の子どもたちが日常的にお寺に散歩に来ていたんです。ふだんから本堂は開放して、子どもたちも出入りするのですが、今は手洗いや誓約書・問診票といったガイドラインがあることで逆に入りにくくなってしまいました。ものものしい書類を見て、うちは大丈夫ですので……と、みなさん帰られてしまって」
ふだんから来ている子も、一時預かりの子も、共存できる仕組みをこれから模索していきたいと丹羽さんは言います。
テレビ放映ではこの取り組みが「臨時の寺子屋」として紹介されました。寺子屋が一時預かりもやっているというように、ガイドラインを修正していくことが今後の課題なのかもしれません。「一時預かり」というと社会福祉の意味合いが強くなりますが、「寺子屋」という言葉には、福祉も教育も遊びも包み込めるようなおおらかさがあるからです。
一乗寺の取り組みははじまったばかり。この休校期間が終わった頃に、もう一度丹羽さんにお話をうかがってみたいと思います。
井出悦郎
1979年生まれ、東京育ち。東京大学文学部卒。人間形成に資する思想・哲学に関心があり、大学では中国哲学を専攻。銀行、ITベンチャー、経営コンサルティングを経て、「これからの人づくりのヒント」と直感した仏教との出会いを機縁に、一般社団法人お寺の未来を創業。同社代表理事を務める